関西出張の帰りに、淀川製鋼所のゲストハウスとして保存されている、ヨドコウ迎賓館(旧山邑邸:きゅう・やまむらてい)に行ってきました。Frank Lloyd Wright (フランク・ロイド・ライト)設計の日本国内で現存する数少ない物件で、国の重要文化財に指定されています。撮影はSONY A900とminolta AF17-35 F3.5G または、AF70-210 F4の組み合わせです。
※2009年7月当時の記事を増補、再掲載しました。
阪急神戸線、芦屋川駅から徒歩10分も歩くと、山裾の林の間に特徴的な〈ヨドコウ迎賓館〉の建物が顔を出しています。開森橋の上から撮影。
近くを流れる芦屋川から、斜面に階段状に施工されている〈ヨドコウ迎賓館(旧山邑邸)〉を望む。夏場で緑が生い茂っているが、冬場ならもう少し全体像が見渡せるのかも知れません。
建物を崖下から仰ぎ見るように、急峻な通称「ライト坂」をしばらく行くと、入口が現れます。玄関に至る途中に公衆トイレとドリンクの自販機があります。その代わり、〈ヨドコウ迎賓館〉建物内のトイレは(もちろん)使えません。さあ、敷地の内部へ進みます。
サービス、メインテナンス用の通路が右方向に延びています。本当はこういうところを見たいのだけれど、我慢して左方向へ進みます。
程なく玄関が見えてきます。〈ヨドコウ迎賓館〉開館の10時少し前、カラッと晴れてはくれませんが、夏場の朝の強い光が、建物にコントラストの高い影を落とします。
ついにやってきました。〈ヨドコウ迎賓館(旧山邑邸)〉のファサード(車寄せ)です。写真では見えませんが、玄関は思っていたよりもかなり狭いです。もっとも家具は概ね設え物なので、後から搬入するなんていう思想はなかったんだろうし、別途搬入口があるのかもしれないです。ちなみに建物内部の撮影は禁止されています。
【追記】その後、2010年に内部撮影が許可されましたので、このとき撮影させていただいた画像も2019年の今日、掲載します。
玄関のドア、これだけしか開口部がありません。玄関前に見える左右に広がるでっぱりは、
手水舎のような水場になっているのでした。
建物のそこかしこに大谷石が用いられています。旧帝国ホテルでも多用された大谷石ですが、加工のしやすさの反面、風雪への耐久度に問題があったようです。明治村へ移築され、玄関周りのみ僅かに原形をとどめるそれを見てもよくわかります。
〈ヨドコウ迎賓館(旧山邑太左衛門邸)〉は1918年にライトによって設計されました。フランク・ロイド・ライトが日本の滞在期間を終え帰国したのは1922年。その後も建物は着工されず、1924年に上棟式が行われたことが後の調査で確認されています。実際の設計監督者はライトの日本での弟子である遠藤 新が務めています。建物の随所に配置されている飾り銅版は建物内部の売店でキーホルダーとして販売されています。
1階で受付を済ませ、2階への階段を上がると、まず応接室が現れます。南側一番奥のガラス戸を開けて、バルコニーへ出ることができます(現在はクローズ)。さて、左下の尖ったものの正体は何でしょう。
その正体は大きな暖炉の装飾です。どうやって開閉するのだろう、とは思いますが、天井には明り取りを兼ねた通風口が並んでいます。
左右に配置された大きな窓が、額縁効果を演出していますね。ベンチに座れないのが残念です。
飾り棚も全体に統一された意匠が素敵です。
シンメトリーが素敵です。応接室を南側から北側に向かって。暖炉脇の階段室に戻り、3階へ上がります。
3階の長い廊下は、西側に天地を目いっぱい使った大きなガラス窓によって、とても明るくなっています。
西日が差し込むと、光と影の共演がみられることでしょう。
3階はほとんどが和室です。もう少し時間をかけて見てみたかったですね。緑青を吹いた銅板の欄間が面白いです。
北側の階段を4階に上がると、天井周りの装飾が特徴の食堂に続きます。右奥が厨房、手前にはカウンターが設えてあります。モダンです。天井の明り取りの小窓が凝っていますが、雨漏りしないのでしょうか。
食堂南側からは、実際にバルコニー(屋上)に出ることができます。
バルコニーを出たあたりから食堂方向を。
〈ヨドコウ迎賓館〉の屋上からは大阪湾まで見渡せます。
3階と4階から階段を通じてそれぞれアプローチが可能です。右下の階段下ると、
大谷石の装飾がここでもアクセントになっています。ここを下ると、
3階和室側の出入り口があります。7月5日は日曜日。〈ヨドコウ迎賓館(旧山邑邸)〉の見学者層を観察してみると、私と同年代の40代中年男性はいないことに気づきます。偶然だろうか。この日は圧倒的に学生と思われる女性が多い。みな熱心にメモを取り、カメラのシャッターを切っています。建築関係の学生だろうか。服装ひとつとってもそこらではしゃいでいる若い娘とは違い「個性」が垣間見えます。
滞在時間は10時の開館からおよそ90分ほだったでしょうか。その間遭遇した客層は、女学生風・約10名、男子学生・1名、親子づれ・1組、そしてわたし、といったところ。のんびり見学できたのは嬉しい限りです。
〈ヨドコウ迎賓館(旧山邑邸)〉3階の売店にはこの建物の関連グッズが販売されています。個人的なお勧めは東側立面図をモチーフにしたTシャツ。白・黒2色あります。恐らくここでしか買えません。
日本では旧帝国ホテルの業績があまりにも大きいため、米国における住宅設計の巨匠という評価は案外知られていないかも知れないフランク・ロイド・ライト。有機的建築を標榜し、米国では〈Falling Water〉 など数多くの実績を残したライトの日本国内において唯一現存する貴重な住宅遺構であることは間違いないです。
※旧・林 愛作邸はもはや別物だともっぱら言われているようです。
1974年に国の重要文化財に指定された大正期の建築物・第1号指定も意義深いことです。桜の季節にもう一度訪れてみたいですね。以上、〈ヨドコウ迎賓館(旧山邑邸)〉探訪記でした。
この翌日訪れた、武庫川女子大学・甲子園会館(旧甲子園ホテル)見学会参加の模様はこちらからどうぞ。