3年ぶりに刊行されたシリーズ6作目、岡崎琢磨はん著『珈琲店タレーランの事件簿6 コーヒーカップいっぱいの愛』で描かれる物件をいくつか巡ってみましたのでご紹介します。視覚情報がない、と書きましたが、本作中の表現はかなり易しいヒントとして書かれているため、妄想というよりも、確定したモデルと判断できると考えています。
これから書くことは、すべて管理人〈menehune〉 の妄想です。アニメのそれと異なり、視覚情報のない小説の文字面だけで勝手に妄想、判断したものですので、そこのところ、ご了承の上ご覧くださいませ。前回の続きです。
『古事記』に書かれた、「国生み」という神話に基づく、イザナギ(原作ではイザナキ)とイザナミが天沼矛(あめのぬほこ)を持ち立ったとされる「天浮橋」(あめのうきはし)。これが現在の「天橋立」と言われていますが、この「天浮橋」からネーミングされた、天橋立駅近くの「浮橋亭」(うきはしてい)という旅館。
『珈琲店タレーランの事件簿6』で〈美星〉が突き止めた、過去に〈影井 城〉と〈大叔母・千恵〉が投宿したこの旅館「浮橋亭」のモデルが、今晩宿泊する「文珠荘」(もんじゅそう)です。和とモダンが融合した上質な旅館です。
「伝統的な和の趣がありながら、新築された別棟にも新しさを感じさせる、高級そうな外観をしていた。」(原作より)向かって右が本館エントランス。左が増築されたレストランで、宿泊客の食事処となっています。駅からは徒歩5分かかりません。原作とは異なりますが、7-22時営業のコンビニも駅との中間にあります。
エントランスから入館するとすぐ左手にソファーセットがあります。これが『珈琲店タレーランの事件簿6』で〈美星〉と〈アオヤマ〉、そして〈小原〉が宿の女将〈三浦〉から話を聞いた舞台モデルでしょう。奥にはラウンジ(バー)が見えます。
ラウンジ側からエントランスのソファーセットを。右奥の黒い枠は暖炉です。
同じくラウンジ側からチェックアウトカウンター・売店方面を撮影。
チェックインはこのラウンジで行われます。おしぼりとお抹茶、お菓子が提供されます。窓の外にテラスが見えますね。朝の時点でカメラ以外の荷物は預けてあり、すでに部屋まで運ばれている。スタッフの姿勢は丁寧ですが、客室係のまだ若いスタッフは物腰が固いですね。
「文珠荘」(もんじゅそう)には、作中登場する「雪花の間」に似た部屋で、二階建ての「雪月花の棟」という3つの棟に和室がそれぞれ複数存在します。menehuneが通された部屋は、一階の「雪舟」という部屋。この部屋は喫煙可能。そして全館Wi-Fiが受かります。原作『珈琲店タレーランの事件簿6』でも登場した『天橋立図』の雪舟と同じという偶然です。畳敷きで外廊下から繋がっており、部屋の扉の先には洗面・トイレと続くドア。右へ進むと布団を収納する押入れがある3畳間。その奥が和室、広縁、庭園となっています。
入口すぐの絨毯の間はありませんが、和室の奥の庭園越しに天橋立へ続く松並木が確認できます。
広縁(ひろえん:和室旅館の窓際にある、椅子とテーブルが置かれた場所)は絨毯敷きで和みます。
窓を開けると、手入れされた庭と天橋立へ続く松並木が見えます。
天橋立温泉は、この宿については、特に露天は塩素臭がありますが、「浸かった気になる」温泉だなと思いました。成分分析表は掲出されていますが、循環なのか、消毒をしているかなどの表示は見られませんでした。この辺りはこれからですね。
それにしても、浴室前の幟には男湯には「いざなぎ」、女湯には「いざなみ」とあるではないですか。場所柄、文珠荘グループ旅館共通の在りものなのかもしれませんが、原作通りではあります。
ロビーにラウンジ(バー)があって、掃き出し(テラス)の庇の下に置かれた床几(しょうぎ:折り畳み式の腰かけ)といった原作『珈琲店タレーランの事件簿6』の記述は、「文珠荘」の意匠と同じです。
夜中に〈美星〉が部屋を抜け出し、〈アオヤマ〉と熱く言葉を交わすシーンはここが舞台モデルでしょう。
バータイムは20‐23時です。テラスでは喫煙可能なので、一杯ひっかければよかったです。こういうところが menehune、抜けてます。
このテラスを抜け、食事会場の別棟「MON」へ移動します。
「文珠荘」宿泊客の食事処として機能する傍ら、「石窯レストランMON」として一般営業もしています。
一番リーズナブルなプランで宿泊したけれど、夕食は充分なボリューム。「天橋立ワイナリー」という地元生産のワインが別料金ですがオーダーできます。赤、白ともにいただきましたが、苦みの少ないバランスの取れたものでした。
夕食から戻ると、当然ですが布団が敷いてある旅館スタイルです。原作通り余裕で川の字に布団は敷けます。和室の旅館で、こうやって幅の狭い布団で寝るのは、思い出す限り、高山市の旅館「田邊」以来でしょうか。調べてみたらなんと、2012年、アニメ『氷菓』の聖地巡礼に赴いたとき以来です。やっぱり幅100センチもない布団で寝るのは難儀ですね。寝室がベッド、という旅館が増えている理由がわかります。ここ、「文珠荘」でも、予算が許せばそうした部屋も用意されています。しかるにこれは巡礼・妄想の旅。今回はこれでよいのです。
近年増築された新しいレストランでいただく朝食は気分のいいものでした。丹後産米が美味しくて、2回もおかわりしちゃいました。
今日は、巡礼とは関係なく、間人(たいざ)方面を巡る計画を立てていたのですが、予報では天候の回復が望めないため、午後の列車ではなく、朝10時発の「はしだて2号」で京都市内へ戻る計画に変更です。
チェックアウトのとき、スタッフの方に、作中出てきた「雪花の間」という、そのものズバリの部屋はあるのですか? と訊いてみると、当館は「雪」「花」「月」の棟にそれぞれ客室がいくつか用意されていますが、そのようなお部屋はありませんねと。そこでこの旅館をモデルにした小説があることを告げ、著者の方は取材に来られたんですか? と重ねて訊きましたが、そのようなことは承知していないとのことでした。
「タイトルを教えてくれませんか?」と逆に尋ねられたので、バッグから原作『珈琲店タレーランの事件簿6 コーヒーカップいっぱいの愛』を取り出すと、たちまち女性3名のスタッフに取り囲まれる形に。興味津々のようです。若い女性スタッフが、読んでみたいので、とタイトルをメモっていました。「ええっと、、、タラーレン・・・」
「はしだて2号」は、京都丹後鉄道の「丹後の海」という特急車両でした。自由席で十分だろうと思っていたら、続々集まる乗車客に恐れをなし、窓口で指定席に変更すると、ここしか空いていないとされた1号車の1Aという座席は、一人掛けでそれはいいのだけれど、自動ドアが開くたびに向こうのトイレ関係のスメルが盛大に漏れてきます。じき慣れましたがお勧めしません。
天気には恵まれませんでしたが、いつかは行ってみたかった日本三景のひとつ「天橋立」を巡る旅、いいものとなりました。『珈琲店タレーランの事件簿6』聖地巡礼、妄想の旅・天橋立編のご報告は以上です。
雪舟が描いた『天橋立図』の謎について言及した、次のサイトも参考までに。