2019年8月27日、同7月18日に発生した京都アニメーション第一スタジオに対するテロの被害者で公表されていなかった25名の死者の氏名が公表されました。
このような警察と報道機関の姿勢に対して、特にネット上で、「遺族感情を考えろ」といった趣旨の反対意見が少なからず寄せられているようですが、menehuneはこのような意見にこそ反対する立場です。だからこそ、昨日の時点での死亡者の氏名が公表されるまで意見を述べずにいたのです。
menehuneは『天気の子』の雑感を記したエントリの冒頭で、この件は追って書きます、としておきました。なぜなら被害者全員の氏名が公表されていなかったからです。もっと言うと、重軽傷者の氏名も公表してほしいと思っています。
では、ざっとおさらいしておきましょう。
【2019/9/16追記しました】
今回の放火殺人事件では、警察が京アニ側の要請や遺族の感情に忖度してアンケートを行うなどし、被害者の実名公表を控えていました。
事件で亡くなった35名のうち、新たに25名の氏名が、27日、京都府警によって明らかになりました。ただ、このうちの20名の遺族からは公表について承諾が得られておらず、府警は公表を踏み切った理由について、「事件の重大性、公益性から実名を提供すべきだと判断した。身元を匿名にするといろんな臆測も広がり、間違ったプロフィールも流れる。亡くなった方の名誉が著しく傷つけられる」とコメントしています。
実際SNSや掲示板でヒトの生き死にが予想されていたのは事実です。少しだけ閲覧しましたが、気分が悪くなり見るのを止めました。
8月27日午後の時点でNHKが死者全員の氏名をまず公表。初稿では25名のうち池田晶子取締役を含む5名程度の公表にとどめていた全国紙や地元京都新聞なども、その日夜から28日にかけて全員の氏名公表に踏み切りました。ネット上でざっと調べましたが、公表していない報道機関もある模様です。
さらに、京都新聞によると、この20名の「実名公表を拒否している」としていた複数の遺族が京都新聞社の取材に「拒否していない」と証言した、という報道もなされており、警察が示してきた「遺族の意向」とは何を意味するのか、今後丁寧な検証が必要となっています。
実名報道の対する考え方として、朝日新聞は、
今回、京都に拠点を置く報道各社は、遺族の取材への心理的な負担を軽減するため、事前に発表時の取材について協議。遺族への報道機関の取材が集中するメディアスクラムを避けるため、新聞・通信社とテレビの各1社が、代表して遺族に取材の意向を尋ねる取り組みをした。
としています。
また日本経済新聞は、
京都府警は27日に発表した京都アニメーション放火殺人事件の犠牲者について、遺族の多くが匿名での報道を希望していると説明しました。日本経済新聞は殺人など重大事件の報道で、尊い命が失われた重い現実を社会全体で共有し、検証や再発防止につなげるために犠牲者を原則実名としています。今回も事件の重大性を考慮し、実名で報じる必要があると判断しました。遺族や被害者への取材は心情やプライバシーに最大限配慮し、節度を持って進めています。
としています。
それでは今回の件について、menehuneの思うところを記しておきます。
過去の京都アニメーションの輝ける実績に名を残した優秀なスタッフの安否状況を知りたいという、純粋なファン心理の行き場を考えてほしいとずっとmenehuneは考えていました。
また、それらの状況を踏まえ、特定のスタッフの生死と病状が、今後の同社の新作制作にどのような影響を与えるのか。
これらが明らかにならない限り、現時点での事件の全体像(の一部)が明らかにならないというのは自明の理であろうと考えていました。
容疑者の動機が明らかになったところで、失われたスタッフが戻ってくるわけではありません。
ファンが真に悼みたいと気を揉んでいるのは、消息が不明となっているスタッフの容体であり、それを知ることができるのは実名公開を行うことであり、その結果、気持ちの踏ん切りがつくからに他ならなりません。
初期の報道で我々は知らされました。暗澹たる気分になりました。
すでに京アニの心体技の柱であった木上(イコール三好はん、多田はん)はんを失い、『氷菓』や『メイドラゴン』で我々ファンを楽しませてくれた武本はんが逝き、キャラデザの中心である西屋はんが逝ったことを。
そして今回の報道で、京アニのビッグ・マム池田晶子はんが犠牲となり、『けいおん!』や『響け! ユーフォニアム』の楽器作監として気を吐いた高橋博行はんが逝き、多くの若い才能の将来が失われたことを。
アニメーションに限らず映像系作品の場合、ファンはスタッフに付くものですし、その系譜は、大塚康生、金田伊功、、、と昔から変わっていない。若者はエンドロールに自分の名前が載ることを目指し、前を向いて上を目指していくものだ。そんな姿勢により命を吹き込まれたアニメーションに我々は心酔し、全世界的な信者たちを形成していく。
そんなファンが京アニスタッフの安否を気に病むあまり、実名公表を心待ちにしてしまうことは非難されることでしょうか。
業界の重鎮と駆け出しのスタッフの名前の重さに違いはありません。平等に氏名を公表し、悼んで差し上げるべきだとmenehuneは考えています。
所詮、遅かれ早かれの話なんだろうと思います。
ただし、今回の事件は自然死・病死とは因を異にする事象のため、遺族への配慮を反故にしろというつもりはありません。四十九日の法要がすみ、現在重篤な状態のスタッフの回復(程度の定義はここでは置く)に目途がついた時点、タイミングという配慮は必要だとも思っていました。
NHKをはじめ、一部報道機関は表明しているように、また、本稿でも前述したように、ファンには知りたい気持ちと、犠牲となったスタッフを悼む気持ちが少なからずあります。
ネットなどで声を上げている氏名公表の反対支持者は、弱きを助け強きをくじく、という気持ちはあるのかもしれませんが、どうも報道機関と警察を叩きたい、という側面が透けて見えるような気もします。
本稿の最後に、未だ重篤な状態で手当てが続いているスタッフの回復と入院中の方々の快癒を心からお祈りし、ご遺族の方々にはお悔やみを申し上げるとともに、ご息女、ご子息たちの実績をもっと誇ってあげれるようお祈りいたします。そして、京都アニメーションの次回作を心待ちにしていることを述べ、一旦終わりにしたいと思います。
一点、指摘しておきたいことがあるので、追記できればと思います。
【2019/9/16追記】京都アニメーション第1スタジオのオフィス環境について
テロが引き起こされた京都アニメーション第1スタジオの延べ床面積は消防の発表によると691平米(209坪)です。各階221.4平米(67坪)です。
この第1スタジオには事件当時70名の従業員が在席していたとされています。
ニュース映像で流された建物の構造から推察するに、
短辺10メートル、長辺を20メートルとするとわかりやすいので、この前提でシュミレートしてみましょう。
これについては京都新聞のサイトに詳しい配置図があったので参考にさせてもらいました。レイアウトサンプルをプロットする配置図のモデルとして、京都新聞
ガソリン炎と煙、一瞬で包囲 京アニ火災、吹き抜け構造で拡大か|社会|地域のニュース|京都新聞
の記事中で使用された配置図を拝借させていただきました。
Copyright (c) 1996-2019 The Kyoto Shimbun Co.,Ltd. All rights reserved.
内線表(座席表)を入手して描かれたとしか思えない地元紙ならではの緻密な取材に敬服いたしました。この配置図がなければ。本記事の発想から作成まで思い及ばなかったと思います。
大まかに縮尺を合わせていくと、建物の短辺が9.8メートル。長辺が22.6メートルとなります。
1坪イコール3.3平米です。各階の坪数は約67坪となります。
オフィスの一人当たりの面積については様々な情報がネットで拾えますが、これについては、様々な団体・企業が調査を行っています。それぞれ調査方法が異なりますが、オフィス面積として計上するのは、執務スペースの他、会議室や応接室、リフレッシュルーム、通路、トイレ、階段室などの共用部を含めたものをグロス面積と呼び、京都新聞の配置図を見ると、殊の外共有スペースが多く、エレベーターも設置されています。1階から3階までの図面を眺めると、共用部分が概ね半分を占めていることに気づきます。
当然第1スタジオは自社ビルですので、共用スペースは全従業員で使うものですが、それにしたところで、執務、作業スペースが影響を受けることは否めません。
全体の配置図からこれら共用スペースを隠してみると、第一スタジオの実際の執務スペースは多く見積もっても350平米あるかどうかと推測できます。これが実際の第1スタジオのネット面積と捉えることができるでしょう。
ひとつの目安を紹介すると、ワークスペースの面積は、デスクの大きさに椅子の可動域として500mm×デスクの幅を加えて算出します。本来これに加えて、スタッフが行き来する通路が必要ですので、さらに通路幅として600mm程度を加えて配置することが望ましいとされます。
しかし京都新聞の配置図に基づいて、京アニ第1スタジオのネット面積スペースにこの基準を当てはめてデスクとチェアを配置してみると、あまり業務がしやすいとは言えない状況が見えてきます。
menehuneが勤めていた会社も対面型の島によって椅子と椅子の間に通路が確保されている島とそうでない島があり、そうでない島に割り当てられた社員は、椅子を引くとすぐ背後の島の社員の椅子にぶつかるという劣悪の環境下で業務にあたっていました。しかしそれでも、島の横側には必ず通路が確保されていました。
本記事の作成にあたり、大光ビルサービス株式会社のウェブサイトからオフィスレイアウトのサンプルモデルを拝借させていただきました。
Copyright (c) 2013 DBS Co.,Ltd. all rights reserved.
それでは、縮尺を合わせた形でプロットした第1スタジオのレイアウトを再現した配置図です。
特に2階の螺旋階段の左側に位置するスペースは座席後ろの通路が確保されているとはいえない状況の様に見えます。デスク幅も1000mm程度と広くはありません。
一般に役職が上がれば上がるほど、デスクの幅は広くなります。2階の収納室側の8席は袖机付きの1400から1600mm相当のスペースが与えられていることがわかります。3階の同じ箇所も中堅から幹部クラスの社員が使用していたことが図面からも伺えます。
共用部の階段室も、ヒト2人が充分にすれ違えるスペースを確保していることが分かります。
全般、延べ床面積に対する共用部の比率が高く感じるのは気のせいでしょうか。
この建物の竪穴区画(たてあなくかく)設置の必要性の有無など、建築基準法や消防法に関係した指摘がネット上でも散見されますが、案外誰も指摘していない点があります。それは、第1スタジオには最大何人の従業員が稼動できる数のデスクがあったのか? という点です。
事件発生時には70名のスタッフがスタジオ内部にいた、とされていますが、それが最大数だとは思えません。こうやって、標準的なオフィスレイアウトモデルをプロットしていくと、あまり理想的とは言えないデスクのレイアウトが見えてくるのです。しかもこうまでしてプロットしないと、報道通り、当日この建物で業務に携わっていた社員が70名という裏付けが図面上でできなくなってしまうからです。
日本のある団体は、ネット面積で見た場合、従業員一人あたりの執務スペースは、最小でも6平米(1.82 坪)程度必要というデータを公表しています。ほかのデータでも、(共用部を含まない)オフィスのスペースは、一人あたり6.6平米(2坪)というのが最低限必要な面積だとしています。
京アニ第1スタジオの共用部を差し引いた350平米を当日在席していた70名で割ると、5平米(1.5坪)となります。
こうやって決して広くない空間で一つの目標に向かって進んでいくクリエーターたちにとって、この空間は居心地が良かったのかもしれません。
一方、本題からは逸れますが、このような環境下では、ストレス、音、匂いなど各種ハラスメントの影響がないとはいえないと思います。
これも結果論ですが、万が一の際の避難経路の確保がもう一方の長辺側になかった点も悔やまれます。
ここまで追記してきて、批判覚悟で端的に言いますが、スタッフの配置として、これは詰め込みすぎではなかったでしょうか?
京都アニメーションを追い詰めるといった気持ちはありませんが、今回の件はただただ残念であり、今後のためにも、専門家の検証が待たれる事象かと思い、追記した次第です。