「そして父になる」を観た。
※ネタバレあります。
夏八木勲はんの最後の出演タイトルでもある。もちろん、いい演技でした。
福山雅治はんの演技を観るのはほぼ初めてかな。。。ああ、「アンダルシア」があったか。
自分の息子とコミュニケートできない、そしてそれは奇しくも「ファザコン」と旧友から揶揄される伏線が、物語後半で解明される、エリート・ビジネスマンを好演していると思う。
最初彼は、実父から自分がそう仕向けられたとおり、「血縁」を選択します。そして実の息子に対し、彼がそうされてきたであろう接し方で、半ば調教さえ行い、折り合いを付けさせようとします。
何にせよ、是枝監督の意図どおりなのでしょう。最初から、「父親」としての福山はんは完全に嫌な奴、として描かれます。
当然、実の息子や、取り違え相手のリリー家、そして妻からも非難の砲火を浴び、彼は沈没します。
そして、きっかけとしては少し弱いけど、あるものを目の当たりにした彼はある決断を下すのですが。。。
マンションの書斎に立てかけたエレキ・ギターは、作中で福山はんの演奏シーンがあるんじゃないか、と思わせておいて、後半、実に魅力的な小道具としての機能を果たすなど、背景美術がみな綺麗です。
福山家とリリー家の対比的な描き方。駐車場を俯瞰で押さえた両家の自家用車のカットは上手いと思うし、その住まいの描写も極端なほど。
片や、リリー家のいかにも「いい人」風な描き方も、型にはまった感があるが、判りやすい上に、現代の弱者といわれる人たちが、実は見た目どおりの負け組みではないことも示唆していて好き。
撮影では、常に微妙にパンやドリーしながらのカメラワークも興味深い。父と子が並木を隔てて歩く川沿いの二本の小路が最後に一本に重なるあたりも判りやすくていいと思う。
私自身は、恐らく今後の人生で子どもを授かることはないと思うし、子どもに対する愛着もない。
妹家族の娘たちの対応にも苦慮するほどだし、もう中学生ともなれば、変なおじさん、と思われているだろう。
「歩いても 歩いても」でも家族の日常の機微を魅せてくれた是枝監督。
本作もそんな「ケース」を疑似体験させてくれる。そうなる可能性があれば、面と資産という側面を除き、私は8割方福山家の方なのだが。
途中、かなりショッキングなホラー的卓袱台ひっくり返しがあったりしもして、でもそれすら物語の伏線となっていて、福山はんの「気づき」に一役買っているなど、、、うん。これはもう一回観てもいいかなと。